【赤字?悪品質?】開発設計から任せるオフショア開発が難しいワケ。

オフショア開発を行うと人件費をはじめとしたコストの大幅な削減と、日本国内で減少が顕著になり始めているIT系の優秀な人材を多く確保することができるため、昨今では多くの日本のIT企業がオフショア開発に乗り出しています。
しかし、このようなメリットによって得られる広義の効率性のアップは、必ずしもすべてのオフショア開発に期待できるわけではないことも分かってきており、オフショア開発を行う企業にはその認識も必要です。今回はそんなオフショア開発における効率性に焦点を絞り、その問題点について考えてみたいと思います。

言葉の壁は設計時の効率にも影響を与える

オフショア開発では、最初に日本企業側が設計を行い、その内容に従ってオフショア企業側がプロジェクトを進めるというスタイルが一般的となっています。そのため、多くの設計書は日本語で書かれますが、現地の技術者がそれを理解できるようにするためには現地の言葉へ翻訳しなくてはなりません。
このためにオフショア開発を行う日本企業では、日本語と現地の言葉が理解できる人材を新たに雇い、設計書の翻訳を行うこともありますが、そのためには翻訳そのものにかかる手間が増えるだけでなく、その作業に携わる人材に支払う人件費が余計にかかることになります。よって、オフショア開発では設計書の翻訳を日本企業側で行う限り、すべての業務を日本企業側で行う場合に比べて効率が悪くなることもあります。
一方、このような問題を解決するためには表やフローチャートなどを多用し、テキストの量を減らすことで翻訳の手間を省くことも可能ですが、設計書自体の精度を保ちながらそれらの手間を省くことは容易ではありません。また、翻訳に関しては翻訳ソフトの精度が向上することでその効率アップを図れるようにもなりますが、現状では専門用語の多いオフショア開発における設計書の翻訳を翻訳ソフトに任せるのは難しく、当面の間は有効な対策とはならないことが予想されます。
以上のように、オフショア開発において大きな障害となる「言葉の壁」は、日本企業側による設計書の作成時にも大きな影響を与え、それによって効率が返って悪くなる可能性があるということは、すべてのオフショア開発を行う企業が認識しなければなりません。

設計からオフショア企業に一任する場合

少数ではあるもののオフショア開発では、設計の段階からオフショア企業に業務を委託するというケースもあります。これによりオフショア開発を行う日本企業には、設計書の翻訳を行うことによる手間や人件費を削減できるというメリットが生じます。
しかし、プロジェクトの方向性を決める設計書の作成をオフショア企業側に任せてしまうと細かな部分の指定ができず、複雑な業務を要するプロジェクトや規模の大きなプロジェクトには、このような設計書の作成までオフショア企業に委託する方法は向かない場合もあります。よって、設計書の作成をオフショア企業に任せてしまえば、どのようなケースでもプロジェクトの効率化を図れると考えることは避けなければなりません。
また、仮にオフショア企業側に設計書を作成してもらったとしても、日本企業側がその内容を確認するためにはやはり翻訳の必要が生じることから、結局は翻訳の手間を完全に省略することはできません。
以上のように、オフショア開発において設計書の作成をオフショア企業側へ委託する方法では、その翻訳にかかる手間や人件費を完全に省略することはできず、日本企業側で設計書を作成したほうが効率面ではメリットが多いことも少なくありません。また、オフショア開発の本来の目的は手間やコストの削減であることから、設計書の作成をオフショア企業側へ委託する方法は、オフショア開発において適切な方法とはいえないでしょう。

日本企業側による管理の難しさ

オフショア開発で効率について考える際には、現地で行われている作業を日本企業側が管理しにくいという点についてもよく考える必要があります。これはオフショア開発ならではの「距離・時差・言語」に関係する問題が双方間での連携を図る上で大きな障害となるためであり、具体的な問題の一例としてはプロジェクトの進捗状況の管理の難しさが挙げられます。
通常、オフショア企業へプロジェクトの一部を委託する際には、事前に通達した内容どおりに作業が進められているのかを確認するために頻繁に現地と連絡を取り合う必要がありますが、上述した距離・時差・言語に関する問題が生じると、現地へ日本企業側が社員を派遣しなければならないこともあります。しかし、こうなってしまうと現地へ派遣する社員の人件費や交通費、現地での宿泊費などのさまざまなコストがかかってしまうことから、オフショア開発の目的のひとつであるコストの削減ができなくなってしまうこともあります。
また、オフショア開発における日本企業側による管理では、設計書どおりに業務が行われているかを逐一確認しなければならないため、プロジェクトが複雑であるほど、それぞれの部門で必要な知識や技術を持ち合わせた多くの人材を現地へ派遣しなくてはならず、これではもはや現地の優秀な技術者を中心にプロジェクトを進め、人件費を削減するというオフショア開発本来の目的も達成できなくなってしまいます。
以上のことから、オフショア開発で効率について考える際には、オフショア開発ならではの管理の難しさと、その対策にかかる手間を考慮し、オフショア開発を利用せずに日本企業側だけでプロジェクトを進めた場合にかかるコストや手間との比較を必要もあるでしょう。

文化の違いによって生じる問題

オフショア開発では両国の文化の違いが効率面での問題を生じさせる原因となることもあります。
例えば日本の企業では納期に間に合わせるために残業や休日出勤をするということは当たり前に行われていますが、国によっては納期に間に合わせることを最優先に考えないこともあるため、そもそも効率の重要性を理解してもらうことが難しいという場合もあります。また、場合によっては、納期に間に合わせるために納品物の精度を落とすということや、そもそもプロジェクトの主旨や目的を理解していない技術者を勝手にプロジェクトに加入させるというケースもあります。
しかし、このような日本人からすると理解できないようなことでも、現地の技術者は悪気があってやっているわけではないというケースも少なくありません。よって、オフショア開発では、文化の違いによって生じるこのような考え方の違いへ理解を示す必要もあります。
また、最近では東南アジアの国々でオフショア開発を行う日本のIT系企業も増えていますが、このようなケースで特に気をつけたいのが宗教の違いによって生じるトラブルです。例えばイスラム教徒が多い国では業務中でもお祈りを優先することから、その時間に電話をかけたり、テレビ会議を設定したりしてしまうと、宗教に対する重大な侮辱行為とみなされ、プロジェクト自体が頓挫してしまうこともあるかも知れません。
このように現地の文化や宗教を理解することは、オフショア開発での効率性の向上においても重要となるため、国際的な感覚を身につけた上で臨む必要があります。

オフショア開発では設計書を日本企業側が作成し、その内容に基づいてオフショア企業がプロジェクトを進めるという手順を踏むのが一般的です。設計からオフショア企業にプロジェクトを一任するやり方には、一見すると翻訳などの手間が省けるといったメリットがあるようにも思えますが、実際にはそのようなメリットは少なく、この方法を選ぶ企業も少数派であるということは覚えておいたほうがよいでしょう。
また、オフショア開発では文化や宗教にもとづいた考え方の違いが問題を生じさせ、効率面での障害となることもあります。このことから、現地の文化や宗教への理解を深めることもオフショア開発での効率化を図る上では不可欠と言えます。

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