ソフトウェア開発の全体あるいはその一部を海外の企業に委託する形態がオフショア開発ですが、近年特にこの傾向が顕著となりました。海外の安い人件費を利用してコストを抑え、品質の良いソフトウェアを活用できるメリットは計り知れません。言語の違いや文化の違いといったデメリット的な部分もあり、リスクも大いに計算しなくてはいけないのですが、国内大手IT企業でしたら、不測の事態が起こってもそれらを吸収できる体力があります。そのためリスクが予見される事案であっても、積極的にオフショア開発を活用していくことができるのです。実際にそういったことで多くの実績があり、結果的に効率良く活用できます。
オフショア開発を如何にして活用するのか
IT企業に務める人が口を揃えて言っているのが、「オフショア開発でIT活用が急務であることは十分に理解しているのですが、何をどのようにすればいいのか分からない…」「ソフトウェア開発を内製化するためには膨大な時間とコストがかかってきた。だからこそオフショア開発を有効に活用したい」ということでした。既に国内だけの開発では人員的に限界を来たしていて、海外の人材に目を向けてきたのは現在に始まったことではないのです。
IT技術者の不足については、常に警鐘が鳴らされていて、今さら感のある企業も多いかもしれません。最新のグローバル開発、つまりはオフショア開発ですが、これに対する考え方のトレンドというのは既に、大手IT企業では統一されていて、オフショア開発企業に委託することを前提としたシステム作りが行われているのです。中小IT企業でしたら、そのリスク管理の膨大さから二の足を踏んでしまいがちなオフショア開発ですが、既にIT企業はそのようなリスク管理の時代を数年前あるいはもっと前に経験しています。
そして、現在の大手IT企業はオフショア開発におけるリスクを最大限克服してきたと言えるでしょう。一番に言えることはオフショア開発企業と常に太いパイプを持っていることです。この開発案件なら、このオフショア開発企業にまかせられるといった実績を大手IT企業は持っているのです。オフショア開発企業を如何にして効率的に活用できるか否かというのは、長い年月で積み重ねた実績があるということです。
拠点化するオフショア開発企業
日本の大手IT企業のひとつに、ソフトバンクグループの名前が出てきます。このような大手IT企業であれば、開発案件が決まると、オフショア開発企業を一から探すのではなく、既にアジアの各拠点にソフトバンクグループが運営するオフショア開発企業が存在しています。ですから、そのオフショア開発企業を拠点として、ソフトウェア開発を行い、必要とあれば現地の下請け会社にソフトウェア開発を発注することもあります。
ソフトバンクグループの中国拠点となるSoftBank PS (Dalian) Solution Service(SBPS大連)は、中国の国有系大手人事サービス企業である北京外企人力資源服務(FESCO)と協業しているのです。これによって、法人向けのクラウド型採用支援サービス「面視網」の提供を開始しています。これは、FESCOが国内向けの事業に対して、ソフトバンクグループが受注して現地のSBPS大連がオフショア開発企業として開発業務を担当しているのです。これは国内のソフトバンクグループとしては、まぎれもないオンショア開発なのですが、FESCOにするとオンショア開発にも見えるといった、なんとも不思議な形態となっているのですが、大手IT企業のオフショア開発の形態としては珍しくありません。
オフショア開発企業を現地で大手IT企業が自ら法人化して開発作業を行うという手法は、大手ならではといったところでしょう。言語や文化の違い、さらには価値観の違いなど、考えられるリスクを最大限取り除いた形態といえるものです。
大手IT企業が運営するオフショア開発企業
SBPS大連は、ソフトバンクグループのオフショア開発の拠点として2009年6月に設立されました。そして、設立以来、日本向けのオフショア開発やBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)といったアウトソーシングサービスを提供してきたのです。SBPS大連の現在の従業員数は約1450人となっています。システム導入による業務効率化といった中国版働き方改革といったものや、サービスの高付加価値化による収益力の増加で、売上高は毎年2ケタ成長を続けているということです。
さらに中国国内においての事業の拡大を目指しているところで、日本向けのオフショア開発から、中国国内向けのビジネスに力を入れているということです。中国から見るとSBS大連はオンショア開発企業としての位置づけとなっているということです。SBS大連では「中国資本の企業に対して、SBS大連の持つアイデアやノウハウを売り込んで、共同で事業展開を進めている」ということです。
その一環として、北京外企人力資源服務(FESCO)と協業し、インターネットを活用することにより、人材採用にかかる時間とコストを大幅に削減するといった「面視網」の提供にこぎつけたのです。現地でのオンショア開発の柱として「面視網」は、クラウド上の人材データベース(DB)より、企業の求人リクエストにおいて、マッチングをして最適な人材を自動で推薦しています。その後、中国企業の要望に応じて、遠隔地からのビデオ面接を行うといったシステム提供も行っています。
オフショア疲れも指摘されている
数年前からベトナムで増えはじめたのが、IT分野でのオフショア開発案件です。従来では中国やインドが主流だったのですが、IT大国となったインドの人件費が上がったために、新興国である、ベトナムやインドネシアへオフショア開発の依頼を移す大手IT企業が増えてきたのです。
日本国内で受注したソフトウェア開発案件を、ブリッジエンジニアと呼ばれる2カ国間の窓口となってプロジェクトチーム内に指示を出すエンジニアを立てて、ベトナム現地でのオフショア開発を推進します。人件費の安さによって大幅なコスト削減が実現できる点で大手IT企業に莫大な利益をもたらすという事業形態となります。現在のIT業界において、多くの人が「ベトナム」と聞けば「オフショア開発」と連想するくらいにまでなったのです。
そして、問題となっているのが、ベトナムでは「オフショア開発疲れ」が起こっているというのです。これはどういうことかというと、ベトナムの経済発展と共に、平均賃金や物価を含めた開発コストが増大しているのです。そうして徐々にそのオフショア開発における「旨み」が減りつつあるのですが、それで、ゴールドラッシュのように今でもその魅力を追い求めてベトナムへ視察にやってくる日系企業が後を絶ちません。
しかし、「ベトナム人のエンジニアの一部では、既にオフショア開発に対して疲れが見えはじめている」というのです。「オフショア開発に疲れている」とはどういうことなのでしょうか。そこにはオフショア開発における闇の部分が見え隠れしています。政治リスクの回避などによって中国から拠点移行の動きもあって、ベトナムにはこの数年で急速に世界各国から、特に日本からの開発案件が集まってきたのです。それは一方で、いまだにソフトウェア開発の下請けとしての「IT工場」の側面が強いことを表しているといっていいでしょう。そこには「自分たちがその結果を見ることができない、歯車の一部としてどこかの国のどこかのサービスを次から次へと作っている。」ということです。オフショア開発である以上、当たり前のことなのですが、ベトナムのエンジニアにサービスに対しての欲求や理想が芽生え始めているのではないか、という指摘が多く最近ではいわれています。
いずれにしてもコスト安の現在の状況はアジアの新興国の経済発展と共にいつかは終焉の時期がやってくるのは間違いのない事実ということです。
通常のIT企業のオフショア開発企業の活用ということでは、現地のオフショア開発企業をどのように有効にかつ効率的に活用しようかと頭を痛めてしまうのですが、大手IT企業になると、現地に自前のオフショア開発企業を立ち上げてそこで現地の人を採用し、日本国内からもエンジニアを派遣し、意思の疎通を図りながら、言語や考え方や習慣の違いといったものを乗り越えて、ソフトウェア開発に当たっているのです。オフショア開発企業を選定する必要がなく、仮にあっても、自前のオフショア開発企業を仲介にして新たなオフショア開発を選定することができ、一から探さなくてはいけない、一般のIT企業に対しても一定のアドバンテージを持っていると言えるのです。