オフショア開発でマレーシアに進出する際の注意点

【目次】
はじめに
オフショア開発でマレーシアが注目されている理由
マレーシアにおけるエンジニアの人件費
マレーシアと日本の雇用制度の違い
IT企業優遇制度「MSCステータス」とは?
おわりに

はじめに

最近はソフトウェアやアプリの開発を、IT技術者が豊富かつ、人件費の安い海外で行うオフショア開発が注目を集めています。IT人材不足が深刻な日本国内とは異なり、東アジアや東南アジアはIT人材が豊富であるというメリットがあるからです。

マレーシアもオフショア開発で注目されている国のひとつですが、マレーシアならではのデメリットをきちんと理解しておくことが大切です。マレーシア人は日本人とは異なる価値観を持っていますし、生活習慣の違いや経済成長に伴う人件費の変化を考慮しなければならないからです。

この記事では、マレーシアのオフショア開発における利点と注意点を解説します。オフショア開発の委託先を検討している方は、ぜひ参考にしてみてください!

この記事で得られる情報
  • オフショア開発でマレーシアが注目される理由
  • マレーシアにおけるエンジニアの人件費
  • マレーシアと日本の雇用制度の違い
  • IT企業優遇措置「MNCステータス」について

オフショア開発でマレーシアが注目されている理由

上述しましたが、日本はIT技術者の人材が不足しているため、最近はオフショア開発でプログラムの作成作業を海外の子会社などに委託する方法が注目を集めています。その中でも、なぜマレーシアがオフショア開発の委託先として注目されているのでしょうか?

多民族国家マレーシア

オフショア開発の委託先として人気なのは、日本よりも人件費が安くて比較的簡単にアクセスができる東アジアや東南アジアで、マレーシアもそのひとつです。マレーシアは多民族国家で、中華系マレーシア人のIT技術者であれば北京語・広東語・英語・マレー語が使えます。そのため、中国や英語圏の会社と取引をする企業であれば、マレーシアは最高の環境といえます。

人件費が安い

マレーシアは日本より人件費が安いことも、人気の理由のひとつです。海外に進出する場合は現地に子会社を設立したり、日本からスタッフを派遣するためのコストがかかりますが、現地の人件費が安いことでカバーできます。

IT企業優遇措置がある

これらに加えて、マレーシアがオフショア開発で注目されている大きな理由は、IT起業優遇措置制度「MSCステータス」が存在することです。マレーシアは世界的にIT企業を優遇している国のひとつで、一部の地域は先進国並みに高速インターネット回線が整備されています。

海外に進出する場合には相手国の就業ビザの取得がネックになることが多いのですが、「MSCステータス」を取得すれば外国人知的労働者に無制限で就労ビザが発行されます。就労ビザの取得に加えて、最長10年間は法人税が免除される・資本金などの外資規制を受けない・マルチメディア関連機器の輸入税免除などの特権が与えられます。

多言語に対応した人材・日本よりも安い人件費・IT起業優遇措置制度などの理由で、マレーシアにオフショア進出を行う日本の企業が増えています。しかし一方で、マレーシアには多くの利点がありますが、注意すべき点があることも理解しておく必要があります

マレーシアにおけるエンジニアの人件費

日本企業が海外に進出する理由は人材確保の他に、人件費が安いという事情が関係しています。東南アジアは日本よりも物価や人件費が安いため、開発コストを削減することができます。

海外に進出する場合には日本人スタッフを現地に赴任させたり、子会社を設立して現地で人材の募集や育成を行う必要があります。事業が軌道に乗るまではコストがかかるので、事業所を開設した後に人件費の安さで初期費用を回収する必要があります。

マレーシアは日本よりも人件費が安いのですが、カンボジアなどの他の東南アジア諸国と比較すると相対的に高いというデメリットがあります。
現地で新卒の技術者を雇用する際の1ヶ月あたりの人件費は700ドル(10万円弱)前後で、2~3年程度のキャリアがある人であれば1,200~1,500ドル(15万円~20万円弱)、10年近いキャリアがある技術者であれば2,000ドル(20万円以上)で、日本と比べて格安という訳ではありません。雇用した後も年率1割程度のペースで昇給させないと離職して他社に転職してしまうので、他の東南アジアと比べると人件費のコスト負担が大きいという問題があります。

マレーシアは経済成長率が高いので、日本と比べて物価や人件費の伸びが著しいという特徴があります。今はまだ日本と比べて人件費が安いのですが、数年後はどうなるかわかりません。現地で事業所を設立した後に数年かけて初期費用を回収するといった計画を立てる場合は、人件費の高騰に注意を払う必要があります。新興国の経済成長率や物価の上昇率を正確に予測することは非常に難しいので、人件費の伸び率を高めに設定しておくことが大切です。

マレーシアと日本の雇用制度の違い

海外に進出する場合には、どこの国であっても日本と相手国の人々の価値観や雇用制度の違いに注意を払う必要があります。マレーシア人を雇う際は、仕事に対する考え方や雇用環境を理解しておかなければなりません。

マイペースな国民性

マレーシア人の特徴は親切で人懐っこい人が多く、マイペースかつ楽観主義です。待たされることに慣れていますが、段取りをして短時間で作業をすることが苦手です。温厚性格の人が多く、言いたいことがあっても強く主張しないという特徴もあります。温厚な性格は長所でもありますが、仕事を進める上で短所になってしまうこともあるので注意が必要です。

マレーシア人はマイペースに仕事を進めることが得意で、自分の仕事は時間をかけてでも最後まできちんとこなします。ただし仕事のペースを他の人に合わせることが苦手なため、他の人と一緒にチームを組んでプロジェクトを進めることを好みません。楽観的でトラブルが起こってものんびり構えている人が多く、問題が大きくなってから慌てるというケースがあります。納期が決まっている仕事であれば、進捗管理などをこまめに行わないと、期限に遅れてしまうなんて可能性も十分にあり得ます。

叱らない文化

また、マレーシアでは仕事の際に他人に強く言う習慣が無く、部下が間違いを繰り返しても叱ることがありません。そのため何度も同じ間違いを繰り返してしまう場合があり、日本人が人材育成をする必要があります。

休日が多い

さらに、マレーシアでは年次有給休暇とは別に、病欠の有給休暇制度というものがあります。病気になった場合は通常の有給休暇とは別に有給で仕事を休むことが普通です。そして日本よりも祝祭日の休日が多いということにも注意を払う必要があります。日本よりも営業日の日数が少ないので、同じ作業をする場合でも長い期間を要します。マレーシア人は日本人よりも仕事のペースが遅いことに注意が必要です。

IT企業優遇制度「MSCステータス」とは?

マレーシアは東南アジア諸国の中では人件費が高めですが、IT企業を優遇する制度が設けられています。最長で10年間も法人税が免除されるので、人件費が高めでもマレーシアに進出することには大きな利点があります。

マレーシアに進出するIT企業であれば、「MSCステータス」を活用することができます。「MSCステータス」を取得できれば大きな恩恵が受けられますが、認定されるためには厳しい条件を満たす必要があります。

「MSCステータス」を取得するための業種に関する条件ですが、ソフトウェアまたはハードウェアの設計・製造・保守にかかわる事業であることが求められます。業種以外にも、現地事務所に関する細かい条件が指定されています。事業所の満たすべき条件には、指定された建物内に事務所を構えること・四半期に1度の頻度で財務報告を行うこと・申請時に提出したビジネスプランに従っているかについての定期チェックを受けること・決算時に会計仕訳(MSCプログラムの対象事業とそれ以外の事業の収益を分ける)をすること、などが挙げられます。

現地で事務所を始めた後は、簡単に業務内容を変更することができません。決められた建物内にオフィスを構える必要があるため、人件費が高い都市部に限られてしまいます。人件費や物価が安い郊外に事業所を設立することができません。

最近は「MSCステータス」を申請する外国企業が増えているため、審査のハードルが厳しくなる傾向が見られます。「MSCステータス」を取得する前提でマレーシアにオフショア開発をする際は、現地の弁護士やコンサルタントを雇って申請手続を進めることをおすすめします。

おわりに

オフショア開発先としてマレーシアが注目されていますが、人件費の高騰・労働者の価値観や雇用制度の違い・優遇制度「MSCステータス」を取得するための条件などに注意を払う必要があります。

  • マレーシアにはIT企業を優遇する「MSCステータス」がある!
  • マレーシアの人件費は他の東南アジアに比べると高め
  • 病欠も有給扱いになるのがマレーシア
  • MSCステータスを取得するのは簡単ではない

最近はIT技術者が不足しているため、先進国以外でも人件費が高騰しています。インターネット環境が整った都市部であれば、昇給が行われないと人材が他社に流出してしまうので注意が必要です。オフショア開発先として先進国の企業の間でマレーシアが人気を集めていますが、メリットとデメリットを十分に検討した上で進出するかどうかを判断するようにしましょう。

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